天職の舞台裏

天職の舞台裏

天職と思って日々仕事をしてますが、その舞台裏で色々考えていること、あるいは水面下でジタバタしてることを書いています。

裁判例をどう読むか

今年のインプットのテーマとして、裁判例を読むことに注力したい、と書きました。

知財分野において、判決を読むことは、「研究」のレベルから、ざっと内容を確認するレベルのものまで、盛んに行われています。研究者でない実務家であっても、広く行われていますし、実務上の指針を得るために必要があると考えられています。

特許庁への手続に不服がある場合には、特許庁内での審判を経て知的財産高等裁判所へ審決の取消が申し立てられますので(審決取消訴訟)、そこでの判断は実務上参考とされます。また、侵害訴訟や職務発明訴訟等についても、当事者となりうる企業知財部や代理人・補佐人等になり得る弁理士にとって、同種の案件に直面したときにどのような結果になるのかを予想するために、参考とされます。

また、知的財産分野の判決は、ほとんど全部が公開されます。通常は判決の言渡しから数日以内、当事者を仮名にする、支障のある部分を黒塗りにする等の処理が必要な場合でも1ヶ月以内には公開されるようです。ですから、最新の判決についても、確認することが容易で、材料には事欠かないと言えます。

このため、あちこちで近時の裁判例を読むタイプの勉強会が開催されますが、どのように読めばいいのか、という方法論があまり明確に共有されていないようです。私自身も、方法論自体を読んだり教えてもらったりした記憶はなく、先達の発表や判例評釈等を読んで見よう見まねでやってきています。今後、共有できるところはしたいと思い、手がかりになる文献やサイトを調べましたので、書いておこうと思います。

改めて、判決の構造

判決書に書かれるべき事項は、民事訴訟法253条に規定があります。

(判決書)

第253条  判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一  主文

二  事実

三  理由

四  口頭弁論の終結の日

五  当事者及び法定代理人

六  裁判所

2  事実の記載においては、請求を明らかにし、かつ、主文が正当であることを示すのに必要な主張を摘示しなければならない。

一般には、以下のような構造になっています。

  1. 判決の言渡日
  2. 事件番号
  3. 事件名
  4. 口頭弁論終結日
  5. 当事者、代理人
  6. 主文
  7. 請求
  8. 事案の概要
  9. 前提事実(争いのない事実等)
  10. 争点
  11. 争点に関する当事者の主張
  12. 裁判所の判断
  13. 担当裁判所名
  14. 担当裁判官名
  15. 添付の目録、図面等

これまでの私の読み方

(1)結果を確認する

主文で、原告の請求が認められたのか、認められなかったのかを確認します。

(2)事案の概要を確認する

要するに、なんの話だったのかを把握します。

(3)争点の項目を確認する

ここまでは、ほぼ最初から順に読んでいったのですが、ここで「争点」まで飛ばします。事実から順を追って読んでいくと、「要するに何がポイントだったのか」を掴むのに時間がかかるためです。なお、判決文の「争点」の項は、端的に書いてあり、それだけではよくわからないこともあります。この場合は、次項で裁判所の判断を読むときに補います。

審決取消訴訟の場合には、「争点」の項目がなく、当事者の主張(取消理由)から読み取るしかないこともあります。なお、知財高裁の判決であれば、知的財産高等裁判所の検索ページから検索すると、検索結果に争点が記載されています。

(4)争点に沿って内容を読み解く

(3)で、この事件が何を争ったものなのかの方向がわかりましたので、詳細な内容を争点に沿って読み解いていきます。「裁判所の判断」を中心に読み、対応する部分の前提事実や当事者の主張を合わせ読みします。順に事実や当事者の主張を読んでいくよりも、理解しやすいことが多いためです。

(5)検討する

(4)によって、事件の内容は理解できます。とはいえ、個別の事件の内容を理解するのが目的というわけではありません。これによって、何らかの実務への示唆を得たいのです。しかし、この案件だけを眺めていても、そうした示唆が得られることは多くありません。判決で認められなかったことを手がかりに、手続上こうしておけばよかったのではないか?と考えることはできますが、それを一般化するのはどうなのだろう?と思いつつ、それ以上広げるのが難しく、ここで止まってしまうことが多かったと言えます。

今後同種の事件が起きた場合にはどのように判断されそうなのか、ということまで考えるには、その判決をこれまでの判決の流れの中に置いてみなくてはわかりません。ではそのためにどうしたらいいのか?というところまで考えていませんでした。

判例の読み方の参考文献など

知財分野で判決文を読むための書籍があれば一番話が早いのですが、残念ながらそのものずばりの本は出ていないようです。弁理士会で「審決・判決の読み方」という研修が過去に開催されたことがあったり、知的財産協会で「わかりやすい特許判例の読み方」という研修が開催されていたりするようです。

一度受講した方がよいだろうと思うものの、今すぐというわけにもいきませんので、民事法一般で判例の読み方についての本やサイトを探しました。

定評があるのは、冒頭に挙げた過去記事にも引用したこちらのようです。とはいえ、知財だけをやってきている知財職・弁理士には少々難しいかも。。

判例とその読み方

判例とその読み方

次の本には、補論として「判例評釈の書き方」が載っています。そもそも、判例研究とはなにか、というところから書き起こされていますので、参考になりますが、これを読んだからすぐ応用ができるという類のものではなさそうです。

民法研究ハンドブック

民法研究ハンドブック

もう少し、易しく解説してあるものはないだろうか、と探し求めていくつか買い込んだうちの1つが次の本。こちらは、文体が軟らかめで読みやすく、分量も200ページ弱と少なめです。掲載されている判例になじみがないのは仕方がありませんね。

判例を学ぶ―判例学習入門

判例を学ぶ―判例学習入門

次も同種の本で、こちらは横書きの学習書のイメージです。こちらの「第I章 判例を読む」には、判例に関する基本的な次項がまとめられていて使いやすいと思います。判決文の構造についての解説もあります。

判例学習のAtoZ

判例学習のAtoZ

  • 作者: 池田眞朗,小林明彦,宍戸常寿,辰井聡子,藤井康子,山田文
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2010/10/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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さらに次の本は、最高裁の民事事件判例を題材とした事例問題集になっているものです。この「I 序 判例の意義と読み方・学び方」に丁寧に判決の構造の解説がしてあります。判例の読み方・学び方の項も参考になります。ただ、事例で取り上げられているのはすべて最高裁の判例で、知財事件は含まれていませんので、直接練習するというわけにはいきません。

民事判例の読み方・学び方・考え方

民事判例の読み方・学び方・考え方

「仮想法科大学院」の7ステップ

ネット上には、明治学院大学法科大学院の加賀山先生が名古屋大学時代に書かれた「判例の読み方」という非常に実践的に手法を示したサイトがありました。

ここでは、「判例を読むときの具体的な方法の提案」として、7つのステップを踏むことを提案されています。(以下は適宜要約したもの)

  1. 時系列にしたがって事実を3つの項目(年月日,事実,法律関係)にまとめる。

  2. 登場人物を示すメモ・図を事実関係の前または後に付加する。

  3. 判決によって適用された条文,事件の解決に必要と思われる参照条文を添付する。

  4. 該当する分野の教科書,条文の注釈書,判例批評等を参考にして,関連判例をピックアップし,関連判決の前提事実と当該判決の前提事実を比較対照し,その事実の違いが,結論の違いを生じさせたかどうかを考察する。

  5. 該当する分野の教科書,条文の注釈書,判例批評を参考にして,当該判例に関連する学説(教科書・学術論文等)をフォローする。

  6. 従来の判例との対比を通じて,当該判決の射程を検討した上で,争点ごとの判決理由および結論に対する自分なりのコメントを書いておく。

  7. 判例の出現によって,制定法の解釈にどのような影響が生じたかを明らかにし,新しい判例法理を,制定法の形で表現しなおしてみる(リステイトメント)。

こちらを読んで、これは使えそう!(失礼)。やってみよう、と思ったのですが、実際に知財事件の判決文にあてはめてみると、そこまで事実が複雑ではないので、時系列のメモとか(上記1)、登場人物のメモや図解(上記2)までは必要がないようです(オーバースペックになってしまう)。そういえば、民法の教科書とかにはよく登場人物の図解が登場していることを思い出しました。そうでもしないと複雑で混乱しがちなんでしょうね(そういう複雑な関係だからこそ訴訟になっているとも言えます)。知財事件でも、商標や不正競争防止法の事件は、複雑な関係が出てくることもありますので、やってみるのがよいかもしれません。

参照条文(上記3)は、確かに重要ですし、判決文内に明記されています。上記のサイトには、引用されている条文だけではなく、ほかにも適用できそうなものがないか考えてみることが推奨されています。とはいえ、これも、知財分野ではあまり考えなくて良さそうです。

上記5~7は、どちらかというと、判決が出てから時間が経過していて、それなりに注釈や評釈が出ているものを前提に書かれているように思います。そうした場合には、参考にできそうです。

ということで、これまで自分の読み方で足らないのは、上記4の関連判例のピックアップの部分だろうと結論づけました。

関連判例の探し方

上記4では、教科書や条文の注釈書、判例批評を参考にするという方法が紹介されています。他にはどうでしょうか。ということで、以下は、上記の参考文献でも紹介されていることが多かった判例の探し方の本です。

リーガル・リサーチ第4版

リーガル・リサーチ第4版

  • 作者: いしかわまりこ,藤井康子,村井のり子,指宿信,井田良,山野目章夫
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2012/04/18
  • メディア: 単行本
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実は、この本は、参考になりそう!と思って以前購入したものの、実戦投入が遅れて会社の書棚に積ん読になっていたのでした(ああもったいない)。改めて読んでみると、第III部は「判例を調べる」となっており、具体的な判例の探し方は、その中の「3.判例の探し方」にあります。さらに、「3.2特定の次項に関する判例を探す」が、関連判例の探し方として参考になりそうです。裁判所の検索ページを使うときのキーワードの設定法にも応用できそう。定番のキーワードは、上述した、知財高裁の検索ページを参考にするのがよいと思います。

以上で、ようやく、何を考えて判決を読んだらよいのか、どう調べていったらいいのかの見当がつきました。あとは、練習ですね。幸い、機会には事欠かないので、関連判例を調べる試行錯誤をしてみて、その後、判例の流れを考える、ところまでやってみたいと思います。