天職の舞台裏

天職と思って日々仕事をしてますが、その舞台裏で色々考えていること、あるいは水面下でジタバタしてることを書いています。

私的別姓ばなし その5|カナダの別姓事情

夫に米国赴任の話が持ち上がり、私は色々迷ったものの、退職して同行することになりました。米国の就労ビザの取得は、会社が面倒見てくれるとはいえなかなか大変そうです。そして、同行家族はそれに付属する形となりますので、家族であることの証明が要りそうでした。

私に先行して数ヶ月間夫は米国に出張ベースで行っていたのですが、その間に事情が変わって正式赴任先がカナダになりました。行先の国が変わったところでビザ関係が厳しいのはどこの国でも同様なので事情は似たり寄ったりだろうと踏んでいたのですが、これがそうでもなかったのです。

ビジタービザ?

まず、米国では、同行家族もビザの発給は日本国内で受けてから飛び立つ必要があります。時間がかかるので、発行されるまで飛行機の予約を取るなとか言われたりします。ところがカナダの当局に帯同家族のビザについて問い合わせたところ、どうやらそういう種別はなくてビジタービザになるらしいこと、そして、入国審査の時に申し出てくれればその場で発行するからそれで問題ないよと言われて驚愕。

特に、家族であることの証明として要求される書類も特定されておらず、戸籍や住民票を提出する必要もないようでした。これは、日本国内で発給するわけではないからなのかもしれませんが実際のところは不明です。

ということで、これなら事実婚のままで行けるのではないかと希望が出てきたのですが、そうはいっても実際にカナダまで飛行機で到着した入国審査のところで揉めて拒否されるのはかなわない。スムーズに行くように、夫のパスポートやビザのコピーに加えて、夫の出向先会社のトップ名で

senri4000さんは、当社に〇〇の役職で勤務しているXXの妻で、同居するために渡航し入国を望んでいます

という旨のレターを発行してもらい、持参しました。これでもダメなときのために、婚姻届も準備していました。その場でそれでなんとなるのかという疑問はありましたが、できるだけ事実婚のまま頑張ってみたかったので、賭けではありましたが踏み切りました。

ドキドキしながら片道航空券で行ったのですが、入国審査でこれらの書類をパスポートと一緒に出すと、特に引っかかるところもなく、納得してそのまま本当にその場でビザが発行されました。期限は夫の就労ビザの期限に合わせてあり、特記事項のところに、夫の氏名、就労ビザの所有者であること、その番号、この妻であることが記載されています。

ということで、肩に力がとっても入っていたのですが、拍子抜けするくらいあっさり事実婚のまま家族として滞在が認められることになりました。

モントリオールでの日常生活

カナダでの生活の地は、ケベック州モントリオールの郊外で、自治体としては英語系住民の比較的多い地域でした。家を借りたり、生活基盤を作っていく中で、運転免許証を取得し、銀行口座を開設し、現地で使うクレジットカードを作りました。

運転免許証は、日本とカナダの条約?で、日本の免許証を持っていけばそのまま特に試験などはなく現地の運転免許証が発行されるという制度が始まったばかりで、係の方も初めてのケースにすったもんだしましたが無事発行されました。日本の免許証も生来姓ですからそのままです。当時、カナダではビジタービザでは社会保険番号が発行されず、社会保険番号証がなかったため、日常的な身分証はこの免許証となりました。

個人の取引に小切手が浸透しているため、銀行口座は小切手の引き落としが主目的のChequing Accountです。夫婦のどちらがサインしても引き落とされるように、夫婦共有名義で口座を作るのがオススメらしく、当然のように共同名義で作成しました。記憶が不鮮明で、口座開設時にパスポートとビザが必要だったのか、運転免許証でよかったのかは不明です。いずれにしても、夫婦の共同口座で、夫婦の姓が異なっていても特に疑問視されることもなく、すんなり口座は作成されました。

現地での買物を日本のクレジットカードを使っていては毎度為替の影響を受けてしまいますので、カナダで決済するためにアメリカンエキスプレスカードを作りました。日本のクレジットカードでは、法律婚でないと配偶者として家族カードは作れません。姓が異なるためすぐに分かりますから申し込みの時点ではねられて終わりでしょう(要件に当てはまらないのでトライしたこともないのですが)。さて、カナダでのアメックスは、何の問題もなく家族カードを申請して作ることができました。特に証明は求められなかったような気がします。

カナダでは私の収入はありませんでしたから、口座の管理上、共有名義の銀行口座(それぞれにキャッシュカード(デビットカード兼用でした)が発行されました)、家族カードは大変便利でした。

その他の日常生活では特筆すべきところはありません。日常生活では夫婦別姓で特に不都合がないのは日本でも変わりません。ただ、日本で暮らすよりも姓の登場局面が少ないのであまり気にならないということはあるかもしれません。基本呼ばれるのはファーストネームですから。

ケベック州の家族法

これは後から判明したのですが、ケベック州ではなんと夫婦別姓が原則でした。1981年に家族法が改正されたとのことで、それ以降の結婚では、逆に結婚に際して相手の姓に変更することができなくなったようです。変更するためには通常の氏名変更の手続きをとる必要があり、当然ながら非常に要件が厳格なため、なかなか認められないようです。

私が滞在していた当時は90年代の後半で、まだ改正から20年も経っておらず、旧法下で結婚したために改姓している世代の人と、新法下で結婚したので生来姓のままの人が混在しているのよ、と現地の人に説明された覚えがあります。

選択的別姓ではなくて、結婚改姓を認めないというものなので、これはこれで改姓したい人からは不評なようで、ネットで検索するとそうした記事が出てきます。特に、カナダの他の州では結婚改姓が認められているところも多いようなので、ギャップが大きいのかも。

子どもの姓

このような夫婦別姓が本則の家族法の下で、子どもの姓がどうなるかということですが、これは選択が認められています。父の姓、母の姓、両者の結合姓が選択できます。結合姓は、両者をハイフンで繋ぐもので、どちらを先にしてもOKです。世代を重ねていくと、結合姓同士の両親が出てきますが、この場合にどんどん結合姓を認めると長くなりすぎるので、その場合は、結合姓の一部を採用するように制限がかかります。AaaさんとBbbさんの子どもの姓は、Aaa、Bbb、Aaa-Bbb、Bbb-Aaaの4種類から選択。Aaa-BbbさんとXxx-Yyyさんの子どもの姓には、Aaa-Bbb-Xxx-Yyyとすることはできなくて、ハイフンで繋ぐのは2つまで、ということです。例えば、Aaa-Yyyとか。

現地の人に聞いたところでは、やはりどちらかの姓にするよりも結合姓が選択される場合が多く、子どもの姓はその結合姓で統一していることが多いのではないか、という話でした。統計を見たわけではないのでわかりませんが、どちらかに寄せるよりも選ばれやすいだろうなという感じはしますね。日本の別姓論では子どもの姓をどうするかが割りにホットになりやすいですが、日本の氏名で結合姓は難しいでしょうから、残念ながらあまり参考になりません。

ちなみに、子どもの姓は、両親由来になるわけですが、その両親が法律婚であるかどうか、さらに、結婚しているかどうかは特に要求されません。父母であることが明らかであれば、子どもに姓を伝えることができます。

姓の話とは少し離れますが、法律婚と事実婚との間に種々の面で差がないため、法律婚を選択する人が減少しているというのが傾向のようでした。

子どもたちの姓をどうするか

上記のようなカナダの家族法については滞在期間が長くなるにつれて徐々に判明したところが大きく、特に出産・子育て経験で判明したところが多くありました。息子1号を妊娠中にカナダに渡ったので、実は息子1号出産時にはよくわからないまま進んだことも多かったのでした。次のエントリでは、子どもたちの姓について書いてみたいと思います。