ビジネスロー・ジャーナルでは、2014年12月号から、米国弁護士の一色太郎氏による「米国における特許権制限の動きが及ぼす影響-特許権価値の低下とパテント・トロールの衰退」と題された連載がされている。
第1回で、米国におけるプロパテント(1980~90年代)、その後のパテント・トロールの台頭(2000年第以降)、トロール規制のためのアンチパテントの動き(2010年以降顕著)が紹介されるとともに、米国特許制度の課題を6つに整理されている。
米国特許制度が抱える6つの課題
陪審および裁判地選択が結果に与える影響
高い賠償および差止めリスク
膨大な訴訟コスト
低質特許の増加
特許無効か手続の不備
低い権利行使コストとリスク
そして、第2回からは、その1つ1つについて解説がなされており、現在発売されている2015年3月号は連載第4回目にして第3の課題(膨大な訴訟コスト)についてである。
各回とも、課題の実態および原因、対策、対策の影響の順に整理解説され、とても分かりやすいし、目先の対応に追われがちな実務担当者にとって、全体の傾向や今後の見通しを得ることができる有益な記事だと思う。
私自身、実務でパテント・トロールからの訴訟をいくつも取り扱っているため、トロール規制のための動きについては、非常に多くの提案がなされていることは知っており、そのいくつかは実際に動き出していると承知していたが、特許制度や訴訟制度の根幹に関わる部分から生じているところも多いだけに、そこまで大きな変化が起こるとは正直期待してこなかった。
それだけに、今回の連載のタイトル(特にサブタイトル)は刺激的だと感じたし、非常に注目して読んでいる。そして、ここまで期待は裏切られておらず、大変有益。特に、ディスカバリーについて取り扱われている今回の記事については、興味深いところがいくつもあったので、自らの覚えも兼ねて書き付けておく。
ディスカバリーがなぜ問題視されるかと言えば、高額になる特許訴訟の費用の大半がディスカバリー費用で占められるから。これがために、訴訟を最後まで争いたいと思っても費用倒れになるおそれから進めないということもあるし、これを利用して、ディスカバリー・ハラスメントとでもいいたくなるような、広範な関連文書や証人を要求して被告側に揺さぶりをかけるトロールも存在する。
今回の記事で興味深かったのは、このようなディスカバリーにおいて、「主観の立証」が争点となった場合にはより多くのディスカバリーを必要とするため、このような争点を制限する方向に進んでいるという指摘。具体的には、AIA(America Invents Act)によるベストモード要件の実質廃止、CAFCにおける不公正行為(Inequitable Conduct)の認められる要件の変更や故意侵害基準の厳格化である。
確かに、訴訟において不公正行為を申し立てるケースが減っているという実感はあったものの、このように「主観的な争点」という観点で整理されると、なるほど確かにその通りで、地味かもしれないが着実に減らす効果はあるものだと感じた。
また、こちらは全く知らなかったのだが、連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure: FRCP)の改正が予定されているらしい。改正案はこちら。中身を確認できていないけれど、記事の中で「ディスカバリーが大きく変わることが見込まれる」と書かれており、現在の緩い関連性基準から、必要性とのバランスが要求されるものに変更されるらしい。運用がどの程度変わってくるのかは実際施行されてみないと分からないが、期待したいところ。
それにしても、現在のディスカバリー基準の緩さによって、ディスカバリー手続は極めて非効率になっているということがいくつかの文献を示してコラムに書かれており、数字を示されるとあらためてこれは酷いと思ったのだった。