前回記事に書いたように、自分が基礎知識をつけたいと思う分野について集中的にインプットを試みることにしました。具体的には、「働くこと」周り(雇用・労働関係)についてです。
企業内で管理職として働いていること、退職や転職も経験していること、子育て期間中もワーキングマザーとして過ごしてきたことなどから、この分野については疑問に思うことが多くありましたし、現在進行形でもあります。例えば、以下のようなものです。
スキルと経験を買われる中途採用なのに、「転勤できるか」が踏み絵のように質問され、それが処遇に反映されるのはなぜなのか。
特定職務に派遣さんを採用したらとてもスキルの高い人だったので是非長く働いて欲しいと思うのだけれど、雇用形態の変更が難しい。
社内資格に「期待役割」が設定されていて、それを満たすかどうかで人事考課を行うことになっているが、実際に割り当てている職務との関連性が希薄で評価が難しい。
異動で受け入れた人材を「期待役割」に照らすと評価が急降下してしまう。マニュアルに沿って辛めに評価したら部門に不要なのかと言われる。
これらに関連して、日本企業は「職能給」(人の能力に対して給与を払う)で海外企業は「職務給」(仕事に値札がつく)、ということを言われることがあります。分かったような気分にさせられる説明ですが、ではなぜそのように日本だけが職能給という状況になったのかについての説明を見たことがなく、納得感が薄いのです。
ということで、ずっともやもやしていた雇用システム周りについて基礎知識をつけようと決意しまして、池上彰さんお勧めに従って、大きめの書店の関係の棚を見に行ったのですが、どうも目的に合うような書籍が見つけられない(悲)。人事労務関係のところかと思ったのでその当たりを探したのですが、実務チックな細かいノウハウ本があふれていてうまく欲しい本に当たらずに諦めました。
池上彰さんは、ネットの書店で検索するとキーワードの設定が上手くないのか漏れてしまうことが多いのでリアル書店の方がよいということを言われていたのですが、行きつけの大きな書店があるわけではない私にとってはリアル書店でうまく見つけるのは難しいようです。以前、税の関係の研究をする羽目になって同じように基礎知識を得られる本を探したときも散々探し回って上手く行かなかったことを思い出しました。
おそらく、私にとっては検索エンジンで探す方が上手く行くのだろうと見当をつけ、Googleで「労働」「雇用」「職務給」「職能給」といったビッグワードでひとまず検索してみます。こうしたビッグワードだと、辞書サイトやWikipedia、ノウハウ系のサイトなどがトップの方に出てきます。ざっくり見て、もっと絞れるキーワードがないかどうかチェックしますが、今回はあまり当たりがありません。こういうときは、ワードを変えるよりも、2ページ目、3ページ目と見ていく方が良いようです。
色々ワードを試しつつ、興味に近い系統のページを探していたところ、検索ワードがなんだったか忘れましたが、濱口桂一郎氏のブログで氏の著作の書評を紹介している頁に当たりました。2冊紹介されていた新書の書評記事を読みに行き、自分の興味と近そうだと判断し、どちらも電子版が出ていたのでその場で購入し読み始めました。
切り口は違えど、どちらも「日本的雇用システム」の歴史をしっかり説明することにより全体を俯瞰してその特徴を述べる形になっており、私の持っていた疑問に相当応えてくれるものでした。現場にいた身からするとそこまでではないのでは?と思うところもありつつも、かなり説得的に感じたので、氏の他の著作も読んでみることにしました。
問題となっている側面を切り出した形(「女子」「若者」「中高年」)でなく、全体をニュートラルに記述しているのは日経文庫のもので、リファレンスとして使いやすいと思いますが、その分抽象的に見えるので、読みやすさで言えばその他の新書の方がよいように思います。
これらを読んでいたところ、Amazonに「日本の賃金を歴史から考える」をお勧めされまして、やっと違う著者の観点から読めそうと思い、購入。賃金という観点なのですが、賃金だけでは当然話が終わらないので賃金を軸に雇用システム全体を眺めることができる構成になっていてとても良かったです。
この本の巻末に「賃金の学習を進めるためのリーディング案内」がついていて、
賃金との関係では労働経済全般を見渡す必要がある
と書かれていて、そうか、この分野って「労働経済」なのね!と遅まきながらキーワードに当たりました(苦笑)。そして、この分野の見通しが良くなる3冊の中に、上記の濱口桂一郎氏の「新しい労働社会」と「日本の雇用と労働法」が入っていて少し安心したりもしました。
そして、労働経済のテキストとしてお勧めされていた、清家篤「労働経済」と脇坂明「労働経済学入門」を次に読みました。
前者が読みやすさでは断然お勧めとされているだけあって、とても分かりやすかったのですが、応用編になるとさすがに古さが目につきます(2002年)。後者は、色々な切り口から取り上げられていて面白く読める上、論文などもふんだんに引用されていて次につなげやすく良かったです。
ここまで読み進むと、用語にも慣れてきて大まかな状況が見えてくるので、厚生労働省の白書「労働経済の分析」や、労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究報告なども読めるようになってきました。これらは最新のものがネット上で読めるので便利です。
大体一回りしたかな、と思いますので、再読したいものを何冊かピックアップし、定着させるためにメモを作ったりしてみようと思っています。その後、自分なりの考えを纏めてみて、現場での諸々に反映させていきたいな、と思います。ここまでくると、目的達成という感じでしょうか。自分の考えの軸として落ち着くには数ヶ月かかりそうな気もしますが。
以上のところまで来るのに約1ヶ月かかりました。前半の半月ほどは、夢中になっていたこともあり、記録もそこそこにインプットに傾倒しており、1日平均2~3時間を割いていたと思います。これでは続かないし、なにをやっていたかも分からなくなってしまうので、記録を復活して日常のペースに戻しつつあとの半月で読み続けてきました。その他の本も読んでいないわけではないのですが、このペースが継続できるかどうかはまだよくわかりません。もう少し試行錯誤する必要がありそうです。でも、1つのテーマについて集中して読むのは非常に面白いことは確かです。