天職の舞台裏

天職と思って日々仕事をしてますが、その舞台裏で色々考えていること、あるいは水面下でジタバタしてることを書いています。

レベルアップあるいは上位概念化

Tak.さんが先日出版された「アウトライン・プロセッシングLIFE」についてのご本人のブログ記事で、「レベルアップ」について取り上げられていました。

wordpiece.hatenablog.com

私はこの記事を読んだ時点ではまだ本書を読んでおらず、記事の内容だけみて、「ん?これって上位概念化のことでは?」と思ってそのままツイートしました。それに対するTak.さんの回答を含んだツイートが以下です。

上記のツイートでご紹介している特許の世界における上位概念というのは、新規性・進歩性についての審査基準の中に定義が出てきます(1.5.3 第29条第 1 項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定 (4)引用発明の認定における上位概念及び下位概念で表現された発明の取扱い)。

(注1)「上位概念」とは、同族的若しくは同類的事項を集めて総括した概念、又は、ある共通する性質に基づいて複数の事項を総括した概念をいう。

名付けの問題

このツイート会話の後、急ぎ本書を購入して読みました(元々読むつもりではいたのですが、優先度を上げました)。

冒頭に引用したブログ記事の中で、Tak.さんは、「レベルアップ」について、

レベルアップは上位のコンテクストを与えることです。あるいは、元の項目を上位のコンテクストの中に組み込むことです。

つまり、上位の階層は、元の項目とは一見無関係なものでもいい。ある項目をどんなコンテクストの中に位置づけるかは、あくまでもアウトラインを操作する人が決めることだからです。

とされており、単純な上位概念化ではない、といわれているのは、おそらく「「コンテクスト」に位置づける」という感覚の方が上位概念という用語のイメージよりも広いからではないかと思いました。

本書の中で、「福岡出張」の上位階層として「福岡X調査」の項目を作る例、DOのプライベートの項目について上位階層を考える例などを拝見すると、この種の概念の操作をTak.さんは「レベルアップ」と呼び、私は「上位概念化」と呼んでいるに過ぎず、念頭に置いているのは同じものではないかな、という気がしました。

ただし、名付けたものに実質が引っ張られる効果は広く見られることなので、「上位概念化」に「これじゃない感」がしたり、「上位概念を考えよう」と自分の中で声かけをすると自由度が失われたり、うまく出てこない、といったことはありそうです。

上位階層を考える習慣について

記事の中でTak.さんは、「このレベルアップ操作、やっている人はおそらくたくさんいるはずなのですが、あまり「書かれた」ものを見たことがありません」と書かれているのですが、仕事上で多用している私の印象としては、上位を考える習慣のある人は多くないように思います。

上位の階層を見つけるというのは、抽象度を上げることにつながり、複数のものを総括する(まとめる)ことになります。対象としているものが1つであったとしても、今手元では同じレベルの他の項目が見えていないだけで、複数存在するのが前提です(そうでないと、上位階層の探索ではなくただの「言い換え」になってしまう)。

アウトライン・プロセッシングで言えば、いったんレベルアップして適切な上位階層を設定してからブレイクダウンをすれば、見えていなかった他の項目が出てくるようになります(シェイク)。なので、このような収束と発散を繰り返す手法は、ツールとして何を使うかは別として、アイデアだしの方法としては広く使われているように思います。

で、発想法としてみんなで楽しくアイデアを出しましょうという目的であればともかく、通常の自分の仕事において、適切な上位階層を探すということは、現在の階層に、手持ちでは見えていない項目を増やすことに直結します(たいていの場合、全てが見えてはいないので)。

ということは、仕事が増えることになりがちですし、目の前の仕事のやり方がこれでいいのか、という根源的な問いを発することにも繋がります。時間はかかるし、考えることは増えるし、納期が迫っている中で仕事をこなすのに懸命な状況では、あまりこうした羽目に陥るのは嬉しくありません。

特に、新しい項目=仕事を見つけてしまって言い出した場合に「言いだしっぺが実行しろ」という暗黙のルールになっている仕事場では、なおさら目を向けたくないのではないかと思います。後ろ向きですが、あるあるではないかと(苦笑)。

以上のようなことを意識的に考えているかは別として、習慣として上位階層の探索をしている人が多くないのは、発明→特許を考えるには上位概念化は必須のところ、相当問いを重ねていかないと発明者から出てこないこと、この横展開を特許に限らず通常業務でも多用するのですが、その場合にも、問えば「言われてみればそうですね」となるけれど自ら出てくることは非常に少ない、という経験に依ります。考えた方が楽しいんですけどね。

上位階層の見つけ方

では、私自身の「上位概念化」は通常どうやってしているのかと言えば、アウトライナーを使っているわけではなく、ほぼ頭の中で行っています(なぜかは分かりませんが、概念を操作するときに文字の形で見えてしまうとそれに囚われて発想が貧しくなる傾向がありまして、このため、書き出して行う発想法は概ね苦手です)。

「共通する性質に基づいて複数の事項を総括」するためには、「共通する性質」がなんなのかを見極める必要があります。対象が持っている性質は1つだけではないため、複数の性質の中からここで括り出したい性質を特定する必要があります。複数の対象を並べて本当に共通する性質を探すこともありますが、1個の対象だけを見て考えることもよくあります。

特に、後者の場合には、その対象に特徴的なものはなにか、ここで考えたい本質的なものは何か、という問いを重ねていくと見えてくることが多いように思います。表面的な共通項を見いだしたいわけではなく、意思を持って取り上げたいことを見極める、とでも言いましょうか。

このときの問いの立て方は、

それって要するにどういうことなの?

です。ややもすると問い詰めることになるので、他人にするときは、もう少し軟らかい言葉にしますが、慣れてる部下に対してだとまんまこの台詞になります。

これが本質である、という形で抽象化することがいったんできれば、本当にそうなの?という問いに進み、その下位概念を対象以外に探します。これがうまくでてきて粒度が揃ってくればうまく上位概念化できている検証ができますし、そうでなければ繰り返し考えて修正をかけていきます。

また、下位概念を探すのに類似しますが、例示や比喩を考えてみることも並行して行うことがよくあります。分野が違うけれど概念化すれば同じところに収束するという具体例を引っ張ってくることができると、理解しやすくなりますし、その上位概念を強固にする(ぐらつかない)効果もあると思います。

比喩の場合は、完全に下位概念でなくてもよく、特徴がうまく現れているものが提示できればOKと思っています。

うまい具体例が浮かばないので、抽象的な話ばかりになってしまっていますが、そのうち思いついたら例を書いてみたいと思います(そういう意味で、今回のTak.さんの本は具体例が豊富でとてもイメージしやすく素晴らしいです!)。