晩年の父は認知症診断を受けていて、主治医を変えたり薬の処方が変わったりしていましたが、診断自体も結局は問診頼りで薬の効果もあるんだかないんだかよくわからないという印象でした。
見当識の問題が方向感覚に強く出ていて、体は元気なものだからうっかり外に出てしまい、ずんずん歩いてどこまでも行ってしまって帰ってこられず、警察のお世話になったり、ずいぶん遠くまで探して拾いに行ったりしたこともありました。
いま振り返ると嵐のような期間で、唐突に終了してしまったのですが、長期にわたっていたらどうなっただろうかと思うことがあります。
ただいま受講中のエグゼクティブ・プログラムの先週・今週は、医学系の先生による認知症予防についての講義・ディスカッションでした。上記の頃から更新されていない自分の認識としては、アルツハイマー型認知症の原因は不明、治療薬はない(進行を遅らせるだけ)というものでした。診断自体も難しい。
あれから数年経ち、あまり関心を持ち続けていられない間に研究はずいぶん進んでいることにびっくり。そういえば、少し前にアデュカヌマブが認知症治療薬としてFDA認可されたという話題があったような(うろ覚え)という。
アミロイドβが溜まることで脳内神経の萎縮に繋がり、認知症の発症につながっていくというアミロイド仮説。その検証と同時に薬の開発が進んできた印象です。そのあたりに非常に興味を持ったので、追加で書籍も買って読みました。
登場人物も多くて盛り上がりも谷もあり、非常に知的に面白く読めました。どういう流れでアデュカヌマブに辿り着いたのか追いかけることができます。ちょうどFDA申請のあたりで終わっています。
このアミロイドβ、脳内に20年30年かけて溜まっていくということで、早期に診断して早期に対応するのが重要そう、でも、ではその間ずっと薬を飲み続ける必要があるのか、などはまだこれから治験が必要な段階のようです。
高齢化で急激に認知症患者が増えていることからして老化によりアミロイドβが蓄積していく傾向にあるのは明らかですが、個人差も大きいらしく、その差が生まれる原因もよく分かっていない。
WHOも認知症を予防するのに良い生活習慣というのを出しているとのことですが、これって結局生活習慣病予防と変わらない、要するに体にいい生活をしましょうに見えます。ただ、こうした健康習慣が浸透してきた北欧などでは認知症の発症者が減ってきているという明るいニュースもあるそうです。
そういえば、少し前に読んだ「睡眠こそ最強の解決策である」の中に、睡眠には脳内の老廃物を掃除する役割があり、その老廃物の中にはアミロイドβも含まれている、という記述がありました(第7章の最後の節「睡眠が脳を掃除する」)。これを読んだときには全然結びついてなかったんですが。
逆に睡眠不足がアミロイドβの蓄積を進めるという話も出てきますね。睡眠ファーストはこの点からも重要そうです。
さて、この認知症の元になっていそうなアミロイドβの蓄積を診断する方法として、血液検査が実用一歩手前まできているそうです。PETによる画像診断に比べてコストも手間も大きく減少。血液検査なら将来的に健康診断や人間ドックの中に入れていくことも可能ですね。治療薬の治験に参加する人の母数も大きく拡大できそうです。
講義をしてくれた先生によると、現在は診断の方が治療に先行している状況のため、診断結果で蓄積がわかったときにどうすればいいのかの決め手がない状態だけれども、正確な診断が大規模にできるようになってきていることを利用して予防や治療に進めていけることをプラスに捉えて進むのが肝心そうです。