天職の舞台裏

天職と思って日々仕事をしてますが、その舞台裏で色々考えていること、あるいは水面下でジタバタしてることを書いています。

人類の移動誌

2拠点生活をするようになった、と言うと、「思い切りましたねぇ」「羨ましい」「やってみたいけどなかなか。。。」「もっとあちこち色々なところに行きたいから、拠点として決めたくはないなぁ」など、さまざまな反応があります。

拠点2の住まいを決めるときにも、拠点1の転居先を決めるときにも、色々な要素を検討しましたが、正直言ってかなり面倒でした。考える要素がとても多い。何かしら制約条件をつけて絞って考えないと、フリーに考えていては発散しすぎてちっとも進みません。

自分のことは一旦棚に上げて世の中を見てみると、人口は減少し、空き家は増えているけれども新築工事も減っているようには見えません。(そして空き家の後に作られているというわけでもなさそうです。)地方から都市への人口の移動は様々な理由があるのでしょうが、減少したようにも見えません。いっときコロナでリモートワークが増えたことで移住が取り上げられたりしましたが、さほど大きな動きにはならなかったように思います。

自然災害などで住まいを失って仮設住宅へ入る方もいるわけですが、それが長期にわたるともといたところに戻るのも難しくなるという話も聞きます。ではいっそ転居してしまえば良いのかどうなのか。

自治体がハザードマップを作っていて、転居前にはそれも確認しましたが、災害時に影響が大きそうなところは避けて住む人ばかりではなさそうです。

などと自分ごとや世の中のことが刺激になって、そもそも、人はどのように住む場所を決めて(選んで)来たのだろう、ということが気になるようになりました。移動は人の本性である、「ホモ・モビリタス」などというフレーズも小耳に挟んだことがあります。

globe.asahi.com

検索して調べていくうちに、そもそものホモ・サピエンスの出アフリカまで遡りまして、研究をまとめた書籍に行き当たりました。

図書館で借り出しまして、一通り読み終わったところです。こちらに研究会のサイトもあります。サイトの冒頭にある紹介によると、

ここにご紹介する研究は、このような人類集団の「移動」に着目し、その歴史や移動に伴う様々な文化的現象を、人類学的視点から多角的に解き明かそうとするものです。人類史に関しては、自然人類学や考古学、遺伝学などの研究が多くなされてきましたが、ここではさらに認知考古学、文化人類学、言語学といった諸分野も加え、分野横断的な視点から「人類の移動誌」ともよべるものを構築し、人類移動モデルの提唱も行うことを目的としています。

とのことで、多くの分野の研究成果がまとめられていて、非常に興味深く、ワクワクして読みました。

「第4章第3節 海域世界への移動戦略」の中で、移動の種類が大きく3つに分類できるとされていました(P242)。パッシブ(受け身)な移動とアクティブ(積極的)な移動、そして不可抗力による偶発的移動。島の多いオセアニアの話ですが、一般化されているようにも読めました。へぇぇぇぇ、です。

(1)パッシブな移動
それまで居住していた場所から押し出されるように移動するもので、押し出す原因となるものはプッシュ要因と呼ばれる。それには自然災害、人口増加、争いや社会的緊張、食糧不足と飢餓、他集団の侵略、疾病など多様である。どの時点で移動を行うかは、プッシュ要因の種類や強さ、そしてそれらに対する文化的・社会的許容量など一様ではない。プッシュ要因の多くは、直接的あるいは間接的に、自然環境の変化とも関係がある。

(2)アクティブな移動
移動先の持つ魅力(プル要因)に引き寄せられるように移動したり、好奇心によって移動したりするもので、積極的に移動する意志を持って行われる。何がプル要因になるかは、移動集団の文化的社会的背景によっても異なり、新しい土地、配偶者、食糧、有用な資源への所有欲などがある。

(3)偶発的移動
これは、海洋地域に特徴的な移動で、人間の意志を伴わない移動である。自然の要因が大きく影響する会場において、不可抗力による移動の典型は漂流である。移動の方向をコントロールできなくなって海流に流されることは、時に生命の危険にもつながるが、同時に、それまでの知識にはない新しい島の発見に結びつく場合もある。

また、最後に研究会メンバーによる総合討論のまとめが「第6章 人類は移動する動物なり」として掲載されており、これが非常に面白かったです。

  1. 人はどのようなときに移動するのか
  2. 人の移動を支えるもの
  3. 人にとって移動とは何か

この書籍の出版が2013年で、この後の10年でさらに研究は進んでいるのだろうな、と思われ、最新の成果を知りたい!と強く思ったことでした。先端の研究に触れる機会があるたびに思うのですが、近年はコンピュータ技術の進歩により解析が飛躍的に進んでいて、あらゆる分野で新しいことがわかるようになっている印象です。きっとこの分野もどんどん成果が積み重なっていることでしょう。

ひとまず古代そもそもの人類の移動について学ぶことができましたので、次はもう少し時代を下っていきたいと思います。