天職の舞台裏

天職と思って日々仕事をしてますが、その舞台裏で色々考えていること、あるいは水面下でジタバタしてることを書いています。

旧姓併記では解決にならない #ぱうぜトーク に思う

10月からドイツはマインツで在外研究をされている、ぱうぜさんの心の叫びを聞き・読みました。

kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp

記事に詳細に書かれているように、ぱうぜさんは、相手の姓を選択して法律婚をされており、戸籍上の姓は「岡島」さんです。他方、研究上は一貫して旧姓である「横田」を使われています。在外研究を目的として渡独されており、ということは、研究上の姓である旧姓を現地で使う必要があり、そのために、パスポートに旧姓併記を受け、受け入れ先のマインツ大学からも旧姓併記(というより戸籍姓併記)で招待状を発行してもらっています。

しかしながら、パスポートの旧姓併記(別名併記)はあくまで便宜のためのものであり、記載はされるもののデジタルデータ上は対応されていないとのことです。おそらくこのために、ぱうぜさんのドイツの滞在許可は戸籍姓のみで発行されています。目視で人が発給してくれるなら滞在許可もパスポートの記載通りに発行されたのかもしれませんが、デジタルな現在では難しいのでしょう。そして、滞在許可発行後は、パスポートよりもこれが現地滞在中の身分証明の基礎になると思われます。これを元に、社会保障番号が作成され、それがあって初めて各種の契約ができるようになり、とリンクが続く。ということは、生活面での氏名は戸籍姓になってしまうということだろうと思います。

仕事以外で旧姓を使う難しさ

日本において、ぱうぜさんが研究(仕事)以外の場面でどちらの姓を使われていたのか(結婚された後、銀行等の職場以外の各所に「氏名変更届」を提出されたのかどうか)は言及されていないので不明ですが、別姓実践者で、通称使用を選択されている方は、仕事以外の場面では戸籍姓を使われている方が大半です。これは、通称(旧姓)は、職場などでは戸籍姓との紐付けができており、本人であることが問題なく証明できる一方で、その他の場面では本人確認のための公的な証明を用意することが難しいためです。ただ、日本国内においては大抵の場合の本人確認書類は運転免許証であるため、これを旧姓のまま維持する工夫をすれば(住所変更さえ乗り切れれば大体行けます)、かなりカバーできると思いますが。住民票や戸籍の提出が求められるような厳しい場合は無理ですね。

このように、日本においても、「仕事以外の場面でも常に」旧姓を使い続けるのはかなり難しいです。ただ、日本では、結婚前の生活の実績がありますから、あえて「氏名を変えました」という申告をせずに継続して暮らしていれば、そのまま暮らせる範囲も相当程度ある、という側面はあります。それでも、気をつけていないと、時間が経つに従って戸籍姓に侵食されていく局面が増えます。以前、通称使用は戸籍姓からの侵食との戦いという趣旨のことを書きましたが、常に気をつけていないと気がついたら職場でしか使えていない、ということになるように思います。なお、運転免許証の旧姓併記が始まったところで、それがどの程度「本人確認」として効力があるのかは、ぱうぜさんも書かれているように、相手次第だろうと思います。法的な根拠はないので、拒否されても異議を申し立てるすべがない。

そして、これまでの生活実績のない土地で新たに生活を始めようと思うと、事実上の継続という手が使えませんから、仕事以外の場面で旧姓を使うのは非常に困難になる、それが海外の場合は特に、ということかな、と思いました。残念ながら、パスポートの旧姓併記は、特にデジタル処理が基本である現在、効果を発揮する場面は非常に限られるということのようですね。となると、現実的な対応としては、以下のようになるかな、と思います。

  1. 生活面は全て戸籍姓で統一し、混乱が生じないようにする
  2. 研究先では、戸籍姓と旧姓のリンクをしっかり取ってもらった上で、旧姓での研究活動をする(公的機関等から戸籍姓で書類が来るなどについては、ちゃんと同一人物であるとして捌いてもらう)

ただ、日本の職場は上記2の取り扱いに慣れていますし、割とその手のこと書類仕事が問題なく行われるのですが、同じように捌いてもらうのは結構厳しい(混乱が起きる・そんな人はいないといって突っ返されるなど)ように思います。また、研究上の郵便物が自宅にも来る、ということのようですから、1.についても、ある程度の戸籍姓と旧姓のリンクの必要はあり、それが表札問題になっていたということですよね。さらに、ここにドイツならではのDr.問題が。ここは、ご本人の中でリンクをとってDr. Okajimaで受け入れるしかなさそうです。「違う〜!」「それ誰?」という気持ちになるのは非常によく分かるのですが、本人性には問題ないので、少なくとも詐称にはならないですし。

今後、同じような状況にある方に対して助言できそうなのが、ある程度の混乱を覚悟した上で上記のような対応を取るくらいのことしか言えそうにないのがなんとも情けない日本の状況だと思います。なぜ生活の・研究の基盤を作る重要で大変な最初の時期に、こんな思いをしなければならないのか。本当に、情けなく思います。現状では、混乱を最小限にしようと思ったら、パスポートを旧姓で取得しておくしかない。それは、改姓後の更新のときにはペーパー離婚などして旧姓に戻す必要があるということです(パスポートの切替申請では住民票の確認が入ります)。婚姻関係に何ら変更がないのに書類上・法律上の身分を変更することに抵抗がある方は多いと思いますので、混乱覚悟で旧姓併記で突入するか、便宜的に離婚するかのどちらかを選べ!って、本当にどうなの!と思います。

たくさんの困難を乗り越えた(つつある)ぱうぜさんの今後の研究生活が実りあるものとなりますように、そして、今後続く方々に少しでも予備知識と気づきがありますように、応援しております。何よりも、こんな思いをする人がなくなるように、ちゃんとした法律上の制度として、選択的夫婦別姓の導入を望みます。

最後に

私自身の別姓遍歴記事のリンクを改めて貼っておきます。書いてからもう4年も前になってしまいました。最高裁の合憲判決からもそろそろ4年ということになります。そろそろ30年の夫婦別姓生活になるのですが、世の中の認知は格段に進んだというのに、制度の方は全く変わっておらず、残念というにもほどがあります。が、あまり変わっていないので、参考にしていただけるところもまだありそうです。長い記事ですが、よろしければご参照ください。

私的別姓ばなし その1|過去記事目録 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その2|結婚に際して姓について考える - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その3|通称使用の時代 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その4|事実婚へ移行 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その5|カナダの別姓事情 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その6|子どもたちの姓の選択 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その7|日本で子持ち事実婚生活 - 天職の舞台裏

私的別姓ばなし その8|現在そしてこれから - 天職の舞台裏